大学進学を希望する方は、どの大学に進学するかがとても大切なポイントとなります。進学先を決める際、大学を卒業してからの進路をある程度見据えた上で選択することが実は重要なのです。
今回は工学の専攻を検討する方へ向け、工学博士について詳しくご紹介します。工学博士になるメリット・デメリットをはじめ、工学博士の就職事情についても解説するので、最後までぜひチェックしてくださいね。
目次
- 1 工学博士とは?
- 1.1 そもそも博士とは何?
- 1.2 博士の取得方法とは
- 1.3 工学博士とは
- 1.4 工学博士を取得する難易度とは?
- 1.5 工学博士と博士(工学)の違いとは?
- 1.6 工学博士と理学博士との違いとは?
- 2 博士号を取得する4つのメリット
- 2.1 メリット1|興味のある分野のより踏み込んだ研究ができる
- 2.2 メリット2|大学の教員になれる
- 2.3 メリット3|高い専門性と研究スキルが評価され、研究員になれることも
- 2.4 メリット4|進路の選択肢が広がる
- 3 博士号を取得する3つのデメリット
- 3.1 デメリット1|経済的負担が増える
- 3.2 デメリット2|社会経験が不足する可能性が高い
- 3.3 デメリット3|博士号向けの就職枠が限定される
- 4 工学博士の就職率と年収の相場
- 4.1 博士が就職しにくい2つの理由
- 4.1.1 理由その1|企業が積極採用していない
- 4.1.2 理由その2|博士は増えたものの大学教員のポストは増えていない
- 4.2 博士のなかでも工学博士は就職率が高め
- 4.3 工学博士の年収の相場とは
- 4.1 博士が就職しにくい2つの理由
- 5 工学博士の主な就職先
- 5.1 1. 民間企業や公的研究機関への就職
- 5.2 2. ポスドク研究員として大学に残る
- 6 まとめ
工学博士とは?
はじめに、博士とは一体何なのかを説明するとともに、工学博士について解説します。工学博士を取得する方法や取得難易度、そしてよく比較される理学博士との違いについて、詳しくご紹介していきましょう。
そもそも博士とは何?
よく耳にする「博士」という言葉。似たような言葉で学士や修士という言葉があります。ここではそれぞれの違いについてみていきましょう。
学士・修士・博士の違い
- 学士…大学を卒業した人に与えられる称号
- 修士…大学院を卒業した人に与えられる称号
- 博士…大学院の特定の課程を終えた人に与えられる称号
ちなみに、日本国内には次の5つの博士号があります。
日本の博士の種類
- 法学系の博士
- 医学系の博士
- 工学系の博士
- 理学系の博士
- 文学系の博士
博士の取得方法とは
博士を取得する方法について詳しくみていきましょう。
博士は、別名「博士課程修了」と呼ばれています。博士を取得するためには、大学院の博士課程で所定の単位を取得した上で、博士論文の審査に合格する必要があります。
日本国内の博士課程には、次の3つがあるので覚えておきましょう。
博士課程の3つのパターン
- 5年間の一貫制
- 博士前期課程2年+博士後期課程3年の区分制
- 2年間の修士課程終了後3年間の博士後期課程がある区分制
どのパターンにおいても以下の条件を満たす必要があります。
博士課程を取得する条件
- 大学院に5年以上在籍すること
- 30単位以上取得すること
- 必要な研究指導を受けた上で博士論文の試験や審査に合格すること
企業や自治体の研究所などで行った研究をもとに執筆した論文が審査に合格することで、博士課程を修了した人と同等の学力があることを証明する方法です。この場合は「論文博士」という学位が与えられます。
しかし、一般的な博士に比べて難易度が高い、研究指導が受けにくいというデメリットがあります。確実に博士を取得したい人は大学院への進学が必須といえるでしょう。
工学博士とは
工学博士とは、工学に関する専攻分野を修了することによって、授与される称号のことです。取得するためには、大学院の工学系研究科に在籍する必要があります。
工学博士を取得する難易度とは?
結論からお伝えすると、工学博士に限らず博士を取得するのはかなり難しいです。
大学院を卒業することで取得できる修士課程の取得条件に加え、博士論文の審査に合格する必要がありますが、このハードルが高いとされています。さらに、修士課程では1報以上を条件とする大学院が多い中、博士課程は2〜3報以上必要なケースが多いことも、難易度が高い要因です。
博士号の中でも、分野ごとに難易度が異なります。一般的に、医学系や理学系の博士号よりも文学系博士の取得率が低いことから、文学系の博士の難易度が高いといわれています。
とはいえ、理学系の博士である工学博士の取得も一筋縄ではいかないと考えておきましょう。
工学博士と博士(工学)の違いとは?
大学の教授の肩書きを見ると、「工学博士」や「博士(工学)」など表記が異なっている場合があるでしょう。
両者の違いは、法律改正によるものであり、博士を取得した年によって表記が異なるだけです。具体的には、1991年以降に博士号を取得した場合は「博士(工学)」と表記するよう改定されました。
改定された経緯としては、多様化する学問に柔軟に対応するためといわれており、博士だけでなく、修士や学士も同様に表記されるようになりました。
工学博士と理学博士との違いとは?
工学博士とよく混同されがちなのが理学博士です。両者の違いについてみていきましょう。
- 工学博士…工学部の大学院や工学研究科を修了することで取得できる博士号
- 理学博士…理学部の大学院や理学研究科を修了することで取得できる博士号
研究内容は異なるものの、数学や理科、英語の知識が必要であること、そして就職率も高めであるという共通点があります。
博士号を取得する4つのメリット
ここからは工学博士を含む博士号を取得する4つのメリットについてみていきましょう。博士を取得することがどのくらい価値のあることかを知ることができます。
メリット1|興味のある分野のより踏み込んだ研究ができる
興味のある専門分野に関するより発展した研究に取り組めるのが最大の魅力でしょう。実際に、研究職についてから博士号を取得したいと感じる方も非常に多くいます。得られる知識や経験は学士や修士の方たちと比べ物にならないはずです。
興味のある学問や分野に関する学びを深めたいと感じる方や研究分野を極めたいと考えている方は、ぜひ博士号の取得を視野に入れておきましょう。
メリット2|大学の教員になれる
大学院を卒業後の進路のひとつとして、大学院に残って研究者になる方も多くいます。大学や企業の研究者として活躍したい人にとって、博士号は研究者として認めてもらうためのライセンスのようなものです。
特に、研究職を経て将来大学の教員になりたいと考えている方は、博士号の取得は必須といえるでしょう。
メリット3|高い専門性と研究スキルが評価され、研究員になれることも
博士号を取得することで特定の分野に関する高い専門性や研究スキルがあると評価されます。博士号は海外にも通用するため、国内のみならずグローバルな企業や研究機関で研究員として活躍できるチャンスも期待できるでしょう。
メリット4|進路の選択肢が広がる
博士号を取得する過程で得た高い専門性や知識・スキルを活かすことで、進路の選択肢が広がるのも大きな価値があります。有名企業や研究機関への就職はもちろん、自分で新たなビジネスを立ち上げることもできるでしょう。可能性は無限に広がっています。
博士号を取得する3つのデメリット
ここからは博士号を取得する上で気をつけたい3つのデメリットについてご紹介します。
デメリット1|経済的負担が増える
一番大きなデメリットは、経済的負担が増えることでしょう。国公立の大学院に5年間在学する場合でも、およそ300万円もの学費がかかるといわれています。もちろん私立や海外の大学に在学する場合はそれ以上のお金が必要です。
学費の工面に苦労している学生も多くいることから、政府や大学はさまざまな奨学金制度などを活用したファイナンシャルプランを検討するよう発信しています。
デメリット2|社会経験が不足する可能性が高い
大学卒業後に5年間大学院に在籍した場合、修了時には27歳になっています。そのため、年齢の割に社会経験が乏しいと見なされてしまうことが多くあるのがデメリットといえるでしょう。
デメリット3|博士号向けの就職枠が限定される
年齢の割に社会経験が不足しているなどの理由から、博士号取得者の採用にあまり積極的ではない一般企業があるのも事実です。そのため、卒業後の就職枠が限定されてしまうことが考えられます。
しかし、近年では工学博士を積極的に採用する企業や団体も増えてきています。専門性を活かして社会で活躍できるため、仕事のやりがいも感じやすいでしょう。
工学博士の就職率と年収の相場
ここからは、工学博士の気になる就職率、そして年収の相場について詳しくみていきましょう。
博士が就職しにくい2つの理由
博士号取得者は、学士や修士号の取得者と比較して就職しにくいといわれています。ここからは就職しにくいとされる2つの理由についてご紹介します。
理由その1|企業が積極採用していない
特定の分野に精通している博士号取得者ですが、企業の採用率は低い水準に留まっているのが現実です。
その理由としては、知識やスキルがあってもすぐに企業で活用できないこと、企業内の研修や教育を経て社内の研究者を育てたいと考える企業が多いことなどがあります。
博士号取得者を採用する際は、一般的に年収を高く設定しなければなりません。高い年収を払っても、企業側でうまく活用できないことが積極的に採用されない大きな要因と考えられます。
理由その2|博士は増えたものの大学教員のポストは増えていない
博士号取得者の多くが希望する大学教員。しかし、大学などにおけるポストや役職は増加していないことから、博士号取得者が修了後も就職先が見つからないケースが多くあるようです。
博士のなかでも工学博士は就職率が高め
工学博士は、博士のなかでも就職率が高いことで知られています。その理由は、大学などのアカデミックポスト以外での活躍の場が多くあるからです。
民間の研究所や一般企業などで活躍できる場があるため、博士課程修了後の進路決定において大きなアドバンテージとなることでしょう。
工学博士の年収の相場とは
工学博士の年収の相場は、修了後1年半後で400〜500万円といわれています。これは社会科学分野(文学系)の博士号取得者と比較すると高い水準です。最近では、特に20代の技術系研修職の年収が上昇傾向にあり、工学博士の需要も高まっていくことが予想されます。
博士全体の平均年収は700〜800万円。なかには年収1,000万円以上の方もおり、年齢を重ねるごとに年収が上昇する傾向があります。
工学博士の主な就職先
ここからは工学博士の主な就職先について詳しくみていきましょう。
1. 民間企業や公的研究機関への就職
近年、博士課程修了者を積極的に採用する企業が少しずつ増加しています。
かつては民間企業や公的研究機関に就職する人の割合が少ない時代もありました。しかし、平成26年の調査では、博士課程修了者の40%を超える人たちが民間企業や公的研究機関へ就職していることがわかりました。
そのため、博士号の取得を検討している方は、民間企業などへの就職も視野に入れておきましょう。
2. ポスドク研究員として大学に残る
博士課程修了後、すぐに助教授などのアカデミックポストに就くことは非常に難しいといえます。そのため、ポストドクター、略してポスドク研究員として大学に残って活動する方が多くいます。
しかし、ポスドク研究員は正規採用ではなく任期が定められている職であるため、雇用が不安定であること、そして将来的なキャリアパスへの悪影響が懸念されているのです。
一方で、ポスドク研究員になることで次のようなメリットがあります。
ポスドク研究員になるメリット
- プロフェッショナルなネットワークを広げられる
- 問題解決スキルが向上する
- プレゼンテーションやライティングスキルが身に付く
まとめ
工学博士について詳しくご紹介してきましたが、いかがでしたか?
博士課程を修了することで、特定の分野の研究を極められるだけでなく、一人前の研究者として認められるなどさまざまなメリットがある一方、経済的な負担や社会人経験が不足するなどのデメリットもありました。
以前は大学教員として働く方が多くいましたが、最近では博士課程修了者を積極的に採用する企業も増えてきています。そのため、以前と比較して幅広い選択肢の中から進路選択ができるようになったことは大きなメリットといえるでしょう。
これから大学進学を控える方、そして進路先を検討している方は、ぜひ今回ご紹介した内容を参考にしていただき、ご自身の進路について考えてもらえたらと思います。